小泉八雲が愛した焼津の海

NHKの連続テレビ小説「ばけばけ」の番組放映も、いよいよ最終月となってしまいました。

八雲が松江を離れ、熊本、神戸の次に最後に移り住んだのが東京ですが、東京帝国大学に在任中の8年間に6度の夏を焼津で過ごしています。

八雲が焼津に魅かれた理由は、ご存知の方も多いかもしれませんが、荒々しい海と、彼が神様のように敬い慕う山口乙吉という人物の存在だったと言われています。

焼津の荒々しい海、生活、そして人々との交流は、八雲の心に深い安らぎと文学的なインスピレーションを与え、多くの幻想的な物語やスケッチを生み出しました。八雲にとって焼津は単なる夏休みを過ごした休息地ではなく、霊的な感覚を研ぎ澄ます創作の場であったとも言われています。

度々ご案内させていただいております、弊社商品「はんべA t Yaidzu」のパッケージデザインは、八雲ご自身が描かれたスケッチを使わせていただいております。

さて、今回ご紹介させていただく絵は、日本画家の今川教子さんの作品「遠い日」です。

トカゲのしっぽの色が、茶色と青白に分かれていることにご注目ください。
トカゲのしっぽの色は、成長に伴って劇的に変化するそうです。特に幼体(子供)の頃の鮮やかな青色は、成長すると茶色や黒っぽい色に変わるそうです。

ここで、「何故海と蜥蜴(トカゲ)の絵が八雲と?」と思われるかもしれませんが、八雲は自身が描いた焼津の海と漁師町の様子を、「小さな入り江に沿うて湾曲して、丁度、蜥蜴(トカゲ)のやうな灰色を帯びてゐる。」(旧制松江中学時代の教え子である大谷正信さん訳)と表現しているということなんです!

今川さんの青い海と蜥蜴の斬新な日本画を写真で、又木さんから見せていただいた時、私は「正に八雲の表現した海!」と思ってしまいました。湾曲した灰色の部分が半分青い尾っぽをしたトカゲに見えました!

八雲も今川さんも、本当にインスピレーションの人なのですね!

先日、この日本画を描かれた今川さんと、紹介してくださった八雲研究家の又木さんがご一緒に、弊社直売店にいらしてくださいました。
昨年、静岡市内の百貨店で開催された今川さんの個展に伺っていたのですが、またお目に掛かれるとは思ってもみませんでした。

またまた、「はんべAt Yaizdu」が繋いでくれたご縁でした。

日頃から弊社商品「はんべAt Yaidzu」でお世話になっている小泉八雲研究家の又木克昌氏より、今川さんの絵画から読み解く大変奥深い考察をいただきました。八雲が焼津の海を「トカゲ」と表現した理由について、素晴らしい視点をご紹介します。

八雲が焼津を題材に描いた名著「At Yaidzu(焼津にて)」の冒頭で、八雲は焼津を次のように書いています。

Lizard-like it takes the grey tints of the rude grey coast on which it rests,—curving along a little bay.
トカゲように、荒々しい灰色の浜が、小さな入江に沿って弧を描いている。その浜沿いにある町の色合いも、灰色である。

なぜlizard-like(トカゲのように)なのか?僕は当初、次の2点を想像していました。
①焼津の浜が弓なりに反っていて、トカゲの尾っぽのように見える。
②浜の石はゴロゴロとしていて、トカゲの肌を連想させる。

ところが、今川教子さんの「遠い日」に出会って、新たな視点を与えていただきました。その第三の視点とは
③若いトカゲの尾は海の青色。海の記憶を留めているかのように。遠い昔に海で誕生した生命が、やがて陸に上がってきた。その悠久の時の流れを八雲が感じることができたのが、焼津であった。東京が近代化されて、西洋の都市と変わらない風景になろうとしている明治20年後半から30年代。焼津には遠い昔の日本の原風景、特に港町の原風景が残されていた。その様をトカゲに例えたのではないか。トカゲの「原始的な」姿への憧れを込めて。さらにlizardの語源はラテン語のlacertusで「海魚」「筋肉」の意。lizardに海で命を懸けて生きる焼津の人々の「筋肉」も込めたのでは?